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黒髪の少女 - 二話 -

2011/05/19 Thu. 03:05 | 長編小説 |

黒髪の少女 - 二話 -

月明かりに照らされた、窓の冊子をゆっくりとなでる。
「美恵子…ごめんなさい。ごめんなさい。」
窓の下へ目をやった美代子の手がピタリと止まった。
震える手を口に当て、窓からあとずさる。
裕太のほうに目をやると、歩いて疲れたんだろう、ぐっすりと寝ている。
「一人で来ればよかった。」月の明かりから涙を隠すように美代子は顔を手で覆った。

「朝食は、クロワッサンとトーストどちらが宜しいでしょうか?」
「うわぁっ!」
目が覚めると枕元に昨日のメイドが立っていた。
今日は紫色ベースの素敵なドレスだ…って、俺はと言うとパンツ一枚。
あらわになった肌を上等のシルクのシーツで急いで隠す。
たまに寝る機会があるシルクとは別物で柔らかい。
「お着替えお手伝い致しますね。」
「え、あ、いや、大丈夫です。自分で着れますから。」
自分から見せる分にはいいけど、不意打ちで見られると恥ずかしい。
助けを求めるように母さんのベットを見る。
「あれ?」ベットを見ると、寝た形跡もなくシワ一つない。
「母さん、どこへ行ったかしりませんか?」
「いいえ、存じ上げません。
朝食はクロワッサンとトーストどちらが宜しいでしょうか?」
彼女がニッコリと笑った。
-

「昨晩遅くにお話をしましたが、それからはわかりませんわね。
お部屋に戻られたと思いましたが。」
そう言い終えると、クロワッサンを小さな口に運ぶ。
「そうですか…。」
「長くいらっしゃらなかったのですから、お散歩でもされているのでしょう。」
昨日の少女とは別人かのように、安心する笑顔で微笑みかけてくれる。
確かに、何も言わずに居なくなるわけもないし、ぶらっとしてるのかもな。
しかしまぁ、パンの美味い事ったら
今まで食べてたパンがスポンジに思えるぐらいに美味い。
「裕太様、新しいものが焼けましたので良かったら。」
流石メイドさんだな、ナイスタイミングでおかわりのパンやらコーヒーを持ってくる。
熱々のうちに、かじり付こうと口を開けながらふと見ると
少女が此方を見てニコニコしている。
「な、何かついてますか?」
「ふふ、いつも一人で食事をするので何だか楽しくて。
屋敷には私と使用人が二人だけですので。」
楽しいって言われても、声もやっと届くくらいの距離なんだけどな。
長いテーブルの真ん中には美しく飾られた花やらキャンドルがあって
その遠くに少女の姿が背景の様に見えるって感じだ。
眼鏡をしてなかったら確実に見えない。
「食事はいつも一人で、ここで?」何十畳あるんだって部屋を見回す。
「ええ。でも、時々外のテーブルに用意してくれるんですよ。」
外のバラ園の中にある白いテーブルを指さしながら嬉しそうに言った。
確かに、こんな広いところでいつも一人じゃ寂しいよな。
「美実様、今日の昼食は外でお召し上がりになりますか?」
「それはいいわね!葵の作ったローズヒップも一緒にお願いね。」
大きな目をクリクリさせて少女が言った。
「かしこまりました。」。
葵って言うのか、名前まで美しいな。今度名前で呼んでみよう。
デザートを運びながら、俺の熱い視線に気づいたのか葵さんが軽く微笑む。
最高だ!母さんもお昼には戻ってくるだろう。
ああ見えて薔薇が好きだから喜ぶぞ。
-

「まったく、朝早く帰ると言ってたわりにどこ行ったんだか。」
母さんが帰ってくるまでやる事もない。
昼も豪勢な食事が出そうだし、腹すかしの為に屋敷の中を散歩してみたはいいが
迷子になりそうな広さだ。
一息ついていると、脇に他とは感じの違う豪華な階段がある。
下から見上げると踊り場の大きな窓からの光に照らされ手すりの装飾ががまるで彫刻のようだ。
「?」
何だろう、何か機械音のようなものが聞こえる。
俺の重さでギシ、ギシと階段がきしむ。
広い踊り場につくと、美しい薔薇が飾られていた。
機械音?いや、電子音のような音がさらに大きく聞こえてくる。
「そこで何してるの?」階段の下から葵さんが声をかけてきた。
「あぁ、運動がてらに散歩でもと思って。」
「葵さん?」
下をうつむいてるのか、顔が良く見えない。
「その先…ったら…」ボソッと低い声で葵さんが床に落とすように言った。
俺が葵さんの所まで戻ると、見なれた笑顔でニッコリと微笑んだ。
「その上は私室になりますから、近寄らないで下さいね。」
「すいません、ふらふらしてしまって。」ばつが悪そうに、俺は眼鏡を直した。
「それでは、お昼の仕度がありますので。」

葵さんの背中を見送り、踊り場を見上げ音に耳をすませる。
「どこかで、聞いた事があるんだけどなぁ。」
好奇心旺盛なほうなので、確かめたい気もするが…。
チラッと目だけ動かすと遠ざかる紫のドレスが此方を伺っている。
俺の聞き間違いだよな?彼女はさっき何て言ったんだろう。
「ま、母さんが戻ってきたら聞いてみるか。」
まだ此方に向けられている視線に背中を向け部屋へと戻った。
その音の先に誰がいるとも知らず。



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黒髪の少女 - 一話 -

2011/05/10 Tue. 19:06 | 長編小説 |

黒髪の少女 - 一話 -

蝉の声が聞こえる。
ビルも何もない広い空からは強い日差しが降り、影を濃くする。
緑と青のコントラストに水の流れの効果音が加わり、日常を忘れさせてくれる。
「…なんて事思うか!何がお嬢様だよ!くそ暑い田舎道を何キロ歩いてると思ってんだ。」
「新鮮な空気をお楽しみなさい。普段空気の悪いとこにしかいないんだから。」
年甲斐のない白いワンピースを風になびかせながら、ハンドバックを振り回して
呆れた様に言った。
「何が大変かって、母さんがもってきたバックが重いんだよ、自分で持てよ。」
「ふん、可愛げのない子供ね。」振り返ってすねた表情をする。

「こんな村はずれにお客様かい?」
声のするほうを向くと、鎌をもったお婆さんが畑の真ん中で立っている。
鎌もったお婆さんに声をかけられるなんて、産まれて始めての体験だ。
例えばだ、鎌もったお婆さんが町中に立っていたら…想像しただけでも恐ろしい。
「鎌形の家にお線香をあげにきたんです。」
「鎌形の家で誰か亡くなったのかい?」
「…当主様が亡くなられたと聞いたのですが。」
にこりと愛想笑いを浮かべていた母さんが、不思議そうな顔で尋ねる。
「はて、先代の美恵子様が亡くなったのは随分前の事だが。」
「…美恵子が亡くなった?」
-

確か、駅についたのは昼頃だったのに辺りは夕焼け色にそまってきている。
母さんは鎌をもったお婆さんと喋ってから一言も喋らない。
夕焼けの光で赤らんで見える顔なのに、青ざめているのがわかる。
「母さん、具合でも悪いのか?」
「電話では父が亡くなったって言ってたし、何だかおかしいのよ。」
「連絡きたのは、こないだだけど死んだのは結構前なんじゃない?
駆落ちした娘に連絡なんてすぐしたくなかったんだろ。」
おれが笑って言うと、微動だにせず母さんが言った。
「美恵子って言うのは、私の妹なんだけど。」
「私に電話かけてきたの、美恵子なの。」

沈黙の中、一時間程歩いただろうか?
茂った木のむこう側に、お城のような大きい洋館が見えてきた。
「やっぱりおかしいわ、帰った方がいいかもしれない。」
「何言ってんだよ、ほら、もう見えてきたぞ。」
「嫌な予感がするのよ。」
いつもの元気はどこにいったってぐらい、その姿は弱々しい。
「何年も会ってないんだ、電話の声だって聞き間違えだよ。
電車もないしさ、線香あげて明日の朝早く帰ればいいよ。」
「…そうよね。」ふぅっと息をつくと、口に手をあて屋敷へと歩き出した。
砂がからみ、より一層重くなったキャリーバックのタイヤが
ザリザリという嫌な感触を手に伝えてきた。
-

多い茂った森を抜けると、そこには遠目からみた時よりも
大きく立派な洋館が建っていた。
「本当に、ここで産まれたのかよ…。」
庭も綺麗に手入れされていて噴水がキラキラと夕日に反射している
家っていうより、これじゃホテルだな。
「似合わない?」
「違和感ありすぎって感じかな。」
「そうね、私もそう思うわ。私にはあんたと暮らしてるあの部屋があればいい。」
「なんだよ、気持ち悪いな。」

《ギギギギ》

ブザーを鳴らしてから、しばらくすると洋館の扉がゆっくりと開いた。
「美代子様お帰りなさいませ、当主がお帰りをお待ちしておりました。」
アキバにいそうな感じの黒のメイド服の美少女が現れた。
「お部屋の準備も整っておりますので、どうぞお入りください。」
「裕太、何見とれてるの?」
「あ、あぁっ・・ゴホン。」
「どうぞこちらへ。」メイド服の美少女が、母さんのバックを持ちながら上品に会釈をした。

「最高だなここは。」
「鼻息荒くして、そんなにさっきのメイドが気に入ったの?」
「ふん、アキバのメイドとは比べ物にもならないよ、来てる服もアンティークで重量感があり
物腰も素晴らしい。
アキバにいるメイド達が全員で立ち向かっても、あの洗練された美しさには敵わないかもしれないな。」
「あぁもう、うるさい。安定剤でも注入してきてもらいなさいよ。」
苛々した感じで、部屋のそこら中を弄繰り回してる。
「何してんだよ。」
「監視カメラとかないかと思って。」
「は?何言ってんだよ。そんなのあるわけないだろ。」
「そうよね。もうあの人はいないんだもの。」
口に手を当てて何かを考えてる。母さんが緊張してるときの癖だ。

コン、コンとノックの音が響いた。
「おば様、お部屋に入ってもよろしいかしら?」
「どうぞ、入って。」
手を下ろしながら、母さんが扉の方を見据えた。
カチャリと開いたドアの向こうには、先ほどのメイドを仕えた黒髪の少女が微笑んで立っていた。
「初めまして、美恵子の娘の美実と申します。私がこの屋敷の当主を任されております。」
歳は13、4だろうか?整った顔にうっすらと化粧をして大人びた感じだが、背が小さく人形みたいだ。
「よく似てるわ、あの子結婚してたのね。」美代子が涙ぐむ。
「いいえ、お母様は結婚はしていませんよ。」
「え?」
「お母様はずっと家にいましたから。」
「まさか…。」口に手を当て、母さんの顔が強張っていく。
「手紙、随分早く届いたのですね。明日辺りに見えると思っていたのですが。」
「手紙?手紙なんて見てないわ、美恵子から電話があったのよ。」
微笑む少女とは対称に、焦った声で美代子が言う。
「可笑しな事を仰るのね、お母様は亡くなったんですよ。」
冷ややかな目でクスクスと子供のような仕草で笑う。

この子、そういえば入ってきた時から一度も表情が変わっていない。
ゾクリと背中に冬のような寒さを感じた。
何故だろう、美しいこの少女に逃げ出したい恐怖感を感じた。
贅沢な袖のフリルを揺らし、少女がひとさし指を俺達の後ろへすっと向ける。
促された方を見ると、その窓から見える空はいつのまにか一面が血のように赤い。
心地いいはずの噴水の水音が血が滴るような音に聞こえてくる。
「私をこの部屋で産んだ後、そのまま、そこの窓から飛び降りたの。」
母さんが膝をがくっと落とし、床に崩れ落ちた。

いつしか蝉の声はやみ、ひぐらしの声に変わっていた。



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黒髪の少女 -prologue-

2011/05/07 Sat. 11:20 | 長編小説 |

-prologue-


「皆さん、私の為なら死んでも構わないって人ばかりだものね。」
半透明の赤いグラスに、あれは紅茶だろうか?
ゆっくりと注ぎながら少女は言った。

「ええ、ここに居る者、全員がそのように心がけておりますよ。」
眼鏡を直しながら、うっとりとした目で彼女の方を向きでっぷりとした男が言った。
見た感じ、会社の社長か議員って感じか?
辺りを見回してみると皆が似たような面構えをしている。
 
俺は果てしなく場違いだな、だけど俺はここにいなきゃいけないんだ。
彼女の方を見ると、宝石のようなガラスの器からドロっとした
蜂蜜を出し、たっぷりと紅茶に入れている。
ソファーやらカーテンやら、どこを見ても高価な物ばかりの部屋一面に
あまったるしい、蜂蜜の香りが漂った。

-

「実はねお母さん、お金持ちのお嬢様なのよ。」
「は?何言ってんだ、毎日スーパーの特売買い漁ってるくせに、更年期が
終わったと思ったら、今度はボケが始まったのかよ。」
市営住宅と言っても、小さなキッチンと、6畳と4畳の部屋があるだけの
狭苦しいが住み慣れた我が家の夕飯時、先日更年期が終わって一安心していた
母親がマネキュアを塗りながら正気じゃない事を言い出した。
「亡くなったパパと、大恋愛の末に駆落ちしたでしょ
だから実家とはずっと疎遠だったんだけど。父親が亡くなったみたいでさ
遺産相続の事で連絡が来たのよ、すんごい豪邸だし結構もらえちゃうかも。
って、あんたちょっと!人の話聞いてるの?何探してんのよ!」
「いや、保険証どこだったかなって思って・・・お、あった!母さん病院行こうぜ。」

-

まさか、たった一人の肉親がTVのリモコンでおもいきり頭を
叩いてくるとは思ってなかった。
きっと目から火がでるってのは、ああいう事を言うんだな。
「チッ」
駅のホームのベンチに腰掛けながら、頭のこぶをさわるとピンポン玉程に腫れていた。
「普通、息子の頭を物で叩くか?」
「あんたが失礼な事いうからでしょ、更年期もきてないのにさ
あんたが言いふらすから近所には心配されるし!」
「夕飯のおかずもらったりして、喜んでたくせに。」
「・・・・仕事場でも高校生の子供がいるなんて信じられなーい!って、モテモテなんだから。
私らだって、兄弟に見られたり、あんたヒモに見られたりしてんじゃない
そんな女捕まえて、何が更年期なのよ。」
「女って…、女の前にあんた母親だろ。」
「あんた、ばかじゃないの!?女ってのはね、死ぬまで女なのよ!」
前で電車を待ってる年配の女性が、よくわかってるわね
というような顔で振り返って母さんの方を見る。
「…あーそうですか、そうですか。」

《まもなく3番線に各駅停車 西船橋行きが参ります 白線の・・・》

「あら、この電車よ。あんたと電車乗るなんて何年ぶりかしらね。」
何を大層にもってきたのか、でっかいキャリーバックを動かしながら
キャッキャッと、女子高生のように喜んでる。
「小学生の時以来じゃね?」
「あぁ!そうだ、動物園行った時以来だわね。あんたったら、あん時さぁ
「ほら!電車見えてきたぞ。」

《ギギギギ》と鈍い音を立てながらホームに電車が到着した。

「裕太、ボックス席取ってきて!」
「あんたは子供か…。」
俺も今年で高校卒業だ。
こんな母親でも父親が死んでから昼夜働いて俺を育ててきた母さんには感謝してる。
卒業したら働いて、楽させてやりたいとは結構思ってるんだ。

-

そうだな、今となったら思ってたと言ったほうがいいのかな。
あの時の俺は、あれが母さんとの最後の旅行になるなんて思いもしてなかった。

「さぁ、それでは皆さんそろそろ始めましょう。」
指についた蜂蜜をピンク色の舌で舐めながら、黒髪の少女が大人びた笑みを浮かべた。


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